Pokémon GOには「画面外の楽しみ」もある

できるネットではPokémon GOの解説・攻略記事を掲載していますが、その多くは「スマホの画面内」を扱ったものです。しかし、現実世界を歩き回って遊ぶPokémon GOでは、「スマホの画面外」にも楽しみがあります。

Pokémon GOと自治体や企業との連携の発表が続いています。このような動きは、いわば「スマホの画面外」も含めた、新しい楽しみを作ろうとするもの。Pokémon GOを長く楽しむために、今回は「画面外の楽しみ」をどのように見つけるか/作るかのヒントと、今起こっている動きを紹介します。

ユーザーの行動が変わり、世の中の動きも変わった

Pokémon GOで、多くの人の行動が変わりました。街のあらゆるところに、スマホを持った親子やカップルや友達同士のグループがポケモンを追って一喜一憂している様子を目にします。

Pokémon GOや、その前身といえる「Ingress」(イングレス)を「リアルワールドゲーム」と呼びますが、リアルワールドゲームは端末の画面の中だけではプレイが完結せず、必ず現実世界でもプレイヤーが動きます。

それを受けて、現実の世の中にも動きが現れます。交通、飲食、観光などの産業にとって、人が動くことは直接的なビジネスチャンスです。

例えば小さな例では、宿泊予約サイトを探してみると「当ホテルの周囲にはポケストップが何件でジムが何件...」といった記述や、「ポケモンGOプラン」をストレートに謳った宿泊プランを見つけられたりもします。

自治体も取り組みを始めています。2016年7月25日に鳥取県が「鳥取砂丘スナホ・ゲーム解放区宣言」を行い、その後「とっとりGO」というサイトを立ち上げ観光PRを始めました。また8月10日には、Pokémon GOの提供元であるNianticと、岩手・宮城・福島・熊本各県との連携が発表されました。

▼とっとりGO
とっとりGO-鳥取県ポケモンGOポータルサイト-/とりネット/鳥取県公式サイト

▼岩手・宮城・福島・熊本各県との連携発表
Pokémon GOと東北3県・熊本県がコラボ、観光復興の取り組みへ - ケータイ Watch

Pokémon GOによる「エコシステム」は作られるか?

このような取り組みは、要するにPokémon GOと自治体との共存共栄を目指すものです。

トレーナー(Pokémon GOのプレイヤー)が各地を訪れて食事や買い物も楽しんだり、宿泊施設を利用したりすれば、地方・業界も利益を得られる。そうして、いわゆる「エコシステム」が形成されていけば、直接プレイしない人たちにとってもPokémon GOは有益なもの、大切なもの、守り育てていくべきものになります。それは、もちろんトレーナーにとってもいいことになるはずです。

Pokémon GOをめぐる世の中の動きは、前向きなものばかりではありません。JRなどが鉄道施設内にポケモンが出現しないよう要請したという報道がありましたが、実際に大きな駅の構内などにはポケストップもなければポケモンも出現しなくなっています。これは、安全確保を考えれば妥当な措置だと考えられるかもしれません。

それだけでなく、寺社仏閣や公共施設、公園などで「ポケモンGO禁止」を告知しているところもあります。理由はさまざまですが、その場所本来の目的にそぐわない、商売にとってマイナス効果である、様子を見ていたがトレーナーたちの行動が目に余る、といったことがあると聞きます。

現時点の対応は温度差が大きい

筆者の周辺で起きた変化を紹介します。近所の商店街にあるパン屋で、最近「店内から入るポケストップにルアーモジュールを入れています。休憩にどうぞ」という看板が出るようになりました。一方、そこから100メートルほど離れた同じ商店街の食堂では「店内でのポケモンGOはご遠慮ください」という張り紙がされています。

両者の事情は、何となく想像できます。パン屋は集客やイートインの利用を増やしての客単価向上を期待しているのでしょう。店のオーナーに聞いてみると「アルバイトの子に(ポケモンについて)教わりながら、やってみているところです」とのことでした。

食堂の方は、いつも行列ができている人気店です。店のすぐ近くにポケストップが2つありPokémon GO的には好立地ですが、ゲームで長居されては回転が悪くなり、ほかの客さんの迷惑にもなるのでご遠慮ください、ということでしょう。

あちこちで、このように温度差のある対応が見られます。前向きな対応が増えればうれしいところですが、必ずしもそうはいきません。

Pokémon GOと「画面外の世界」との連携は始まったばかり

Pokémon GOの国内配信開始から1カ月あまり。Pokémon GOと自治体や企業など「画面の外の世界」とが連携する試みは始まったばかりです。配信開始と同時に連携を始めた日本マクドナルドも、また効果については何の評価も発表していません(影響の度合いは不明ですが、2016年7月の客数、売上高の増加は発表されています)。

自治体との連携も、具体的な施策は未定なところも多い状態です。トレーナー(Pokémon GOのプレイヤー)の反応を見たり、声を聞いたり、また自分たちでもプレイしたりしながら手探りで動き出している状態のようです。

横須賀市が街を挙げて動き出した「ヨコスカGO宣言」

こうした中、神奈川県横須賀市では、2016年8月21日に「ヨコスカGO宣言」を行い、Pokémon GOを通じた地域への理解の促進する活動や、集客や観光資源のPRをしていくと発表しました。

横須賀市はIngressを活用した集客推進やイベントも早い時期から積極的に行っている、経験と実績のある自治体です。今回の「ヨコスカGO宣言」は、横須賀市だけの集客や観光PRにとどまらず、これからPokémon GOとの連携を考えたい自治体のモデルケースとなることも強く意識した取り組みとなっているようです。

そのため、横須賀は遠い、行く機会がないという人でも、Pokémon GOのような新しいものとビジネスとの関係に興味がある人なら、注目に値します。

ここからは、「ヨコスカGO宣言」とあわせて8月21日に横須賀市の世界三大記念艦「三笠」講堂で行われた講演会「リアルワールドゲームを楽しもう!~安心・安全に『Ingress』や『Pokémon GO!』で遊ぶために~」の内容をレポートしながら、リアルワールドゲームと自治体や企業など「画面外の世界」との連携について、ヒントになりそうなことを紹介していきます。

「ヨコスカGO宣言」と講演会「リアルワールドゲームを楽しもう!」の会場となった世界三大記念艦「三笠」がある三笠公園。Pokémon GOでポケモンが多数出現する名所でもある。

千葉市や福岡市からもコメントが寄せられ、高まる期待

「リアルワールドゲームを楽しもう!」の冒頭、横須賀市長の吉田雄人氏による「ヨコスカGO宣言」が行われ、Pokémon GOを活用してリアルワールドゲームが持つ社会的使命を見極めたり、経済効果を高めたりしていくと語られます。宣言文は横須賀市の観光情報サイト「ここはヨコスカ」でも公開されています。

「ヨコスカGO宣言」でポーズを決める吉田市長。

▼ヨコスカGO宣言
「ヨコスカGO宣言」について | ニュース&トピックス | 横須賀市観光情報サイト「ここはヨコスカ」

宣言の内容は後編で詳しく見ていきたいと思いますが、ほかの自治体が同様の取り組みを始めるときの雛形として使われることも意識し、調整に調整を重ねて作られた内容だとのこと。Pokémon GOをどう遊ぶ/どう遊んでもらうようにするのが、自治体や企業とプレイヤーとのいい関係作りにつながるのかが考え抜かれています。

「ヨコスカGO宣言」のあと、千葉市長・熊谷俊人氏、福岡市長・高島宗一郎氏よりビデオメッセージがあり、自治体での注目度・期待度の高さを伺わせました。

「まじめに遊ぶ人を支援してほしい」

横須賀市のIngress連携施策「Ingress Yokosuka」の監修者でブロガーの堀正岳氏による講演「IngressからPokémon GOへ」では、IngressやPokémon GOの特徴や歴史の紹介と、現状の課題の整理などが行われました。

堀氏はインプレス刊の電子書籍「はじめよう!Ingress」の共著者でもあり、横須賀市にある海洋研究開発機構の研究者でもある。

最初にPokémon GOの現状を共有。Pokémon GOの爆発的なヒットについてはギネスワールドレコーズも記事を配信しているほどです。

2016年7月14日に配信が開始されたイギリスで1カ月後となる8月14日に調査を行ったところ、8割以上のユーザーが継続してプレイしており、離脱率の低さも注目に値するとも。

▼ギネスワールドレコーズの記事
Pokémon Go catches five new world records | Guinness World Records

そして、IngressやPokémon GOを活用した自治体の取り組みを紹介。横須賀市の取り組みとしては、Ingressの「ミッションデー」(「ミッション」としてコースを設定し、みんなで街を散策・探検するイベント)の開催や、WILLER TRAVELとのコラボレーションによるIngressバス「NL-PRIME」などが紹介されました。

▼NL-PRIME
世界初INGRESSバス「NL-PRIME」 |高速バス/夜行バス予約|WILLER TRAVEL

社会問題となっている部分について、Ingressでも同様のことはあったがPokémon GOほどの規模ではないため目立たなかったこと、また、プレイヤーのコミュニティによる自浄作用がある程度働いていたことを説明。Pokémon GOではプレイヤーが多すぎて声が届きにくいという問題点が指摘されます。

最後に「横須賀市に期待すること」として、次の3点を挙げました。

  • トレーナーとしてまじめにプレイし、長く楽しむことを支援する形になってほしい
  • トレーナーと地元をつなぐ情報のハブになってほしい
  • イベントを提案・主催して、そのノウハウを公開してほしい

「遊ぶ」とは何で、周囲は何を支援できるのか?

Pokémon GOと自治体や企業との連携は始まったばかりだと述べましたが、Pokémon GOそのものも、まだ最小限といえる機能でサービスを開始したばかりです。登場するポケモンは720種類以上いるうちの一部だけ。これから実装が予定/予想/期待されている機能も多数あります。

スマホの画面の中も外も充実してくるのはこれからという今、「リアルワールドゲームを楽しもう!」後半では神奈川工科大学准教授の白井暁彦氏が登壇し、「遊び」とは何か? を捉えなおすことから、新しい「遊び」の作り方を考えます。

このゲームのそもそもの設定では「世界のポケモンの生態と分布を研究しているウィロー博士を手伝い、世界中を探検してポケモンを捕まえ、報告すること」が目的でした。しかし、気が付けば「ポケモン図鑑を完成させる」「ポケモンジムのバトルに勝つ」ことに夢中になってしまう人が多いようです。

Pokémon GOをプレイしていて新しい可能性を感じ、せっかく外に出て遊ぶのだから、もっとほかの楽しみ方もできるんじゃない? と思った人は多いはずです。具体的には何だと聞かれると答えるのは難しいかもしれませんが、まずは、いろいろと試してみたいものです。

新しい楽しみの可能性を探り、また、自治体や企業の取り組みとつながってエコシステムを作っていくためのヒントを、後編ではさらに紹介していきます。

▼後編
「歩く」ことも原初の遊び。Pokémon GOの楽しさはもっと増やせる!【ヨコスカGO宣言レポート 後編】

関連まとめ記事