マイクロソフトのクラウドサービスを支える基盤

 Windows Azureは、マイクロソフトが提供するクラウドのサーバーで動作するOSです。Windows 7などの一般ユーザー向けOSとは異なり、企業のITシステムにおけるプラットフォーム(PaaS)として提供されます。

 関連するサービスを合わせた総称としては「Windows Azure Platform」と呼び、Windows Azureのほかデータベースとして「SQL Azure」、アプリケーション実行環境として「Windows Azure Platform AppFabric」が用意されています。

プライベートでもパブリックでも同じ環境を提供

 Windows Azureは、これまでに紹介したGoogle やAmazon、セールスフォース・ドットコムなどのサービスと同様に、パブリッククラウド(レッスン19を参照)に相当します。

 一方で、マイクロソフトでは企業内でのサーバー運用(プライベートクラウド)を指向する企業に対する製品も用意しています。この「パブリッククラウドとプライベートクラウドで同等の機能が提供されている」ことが、Windows Azureをはじめとしたマイクロソフトのサーバー関連製品・サービス群が持つ大きな特徴となっています。

 下図は、2009年11月のイベントで発表されたサーバー関連製品・サービス群をまとめたものです。右側はパブリッククラウドのサービス群、左側はプライベートクラウド(または社内サーバー)向けの製品群を表しており、OSやアプリケーションなどの階層ごとに、2つのクラウドのそれぞれに対応する製品・サービスが用意されていることがわかります。

 例えば、プライベートクラウドの構築を考えている企業には、Windows Azureではなくサーバー用OS のWindows Serverを提供します。最新版「Windows Server 2008 R2」は仮想化ソフトウェア「Hyper-V」を含んでおり、企業内のサーバーをプライベートクラウドとして運用することが可能です。

 また、レッスン23で解説したMicrosoft Online Servicesに対しても、同等の機能を企業内のサーバーで実現するExchange Server、SharePoint Serverなどが提供されています。

●Windows Azureとサーバー関連製品・サービス群

豊富なラインアップ+既存資産の活用が強み

 クラウド関連サービスを支える屋台骨となるWindows Azureを始動させたマイクロソフトは、クラウドへの取り組みの特徴として「全方位戦略」を強調しています。

 この全方位とは、レッスン21で述べた3スクリーン=さまざまなデバイスに対し、パブリッククラウドとプライベートクラウドの両方に対応可能なサーバー環境を構築できるという、同社の製品・サービスラインアップの「厚み」を指しています。この点は他社に対する大きな強みと言えるでしょう。

 さらに、マイクロソフトにはもう1つの強みがあります。それは、過去にWindows Server上で開発されたアプリケーションや、すでに多くの開発事例がある「Visual Studio」「.NET Framework」といった開発環境を、Windows Azureでも活用できる点です。

 マイクロソフトのサーバー関連製品群や開発環境を以前から利用していた企業や開発者は、これまでに積み重ねてきたアプリケーション資産や開発ノウハウを生かしながら、パブリッククラウドならではの、柔軟な運用や高い可用性といった恩恵を受けることができます。Windows AzureはAmazonやセールスフォース・ドットコムのPaaSと比較すれば後発ですが、すでに多くの潜在顧客を抱えていると言えるわけです。

 一般ユーザーがクラウドに接続する環境を整備するとともに、ビジネス向けのSaaS、PaaSでも既存の資産を生かせる環境を用意したマイクロソフトは、これから多くの個人や企業を、クラウドの世界へ導いていくことになるでしょう。

●マイクロソフトの「全方位戦略」

[ヒント]2つのクラウドの橋渡しをする「AppFabric」

「●Windows Azureとサーバー関連製品・サービス群」の図にあるように、マイクロソフトのサーバー関連製品・サービス群は、パブリッククラウド向けとプライベートクラウド向けに、同等のものが用意されています。アプリケーション開発環境であるVisual Studioと.NET Frameworkは、2つのクラウドに共通するものとして位置づけられていますが、開発されたアプリケーションをどちらのクラウドでも利用できるようにする橋渡し役となるのが、その下の層にある「Windows Azure Platform AppFabric」(パブリッククラウド側)と「Windows Server AppFabric」(プライベートクラウド側)です。2つのAppFabricは、サーバーからのさまざまなサービスをアプリケーションに提供し、同時にサーバーの動きを監視・制御する働きをします。また、AppFabricはアプリケーションに対して共通した環境を提供するため、開発者は2つのクラウドのどちらのサーバーを利用する場合でも、あるいは両方を組み合わせて利用する場合でも、同じ感覚でアプリケーションを開発すればよいことになります。実際にサーバーを制御する作業は、AppFabricに任せておけばよいためです。